「コンプレッサー」という言葉は皆さんもどこかで聞いたことがあると思います。
ギター用のコンパクト・エフェクターもありますし、マルチ・エフェクターなどにもたいがい内蔵されているので「コンプレッサー」による効果が大体どんなものなのかも知っている人も多いかと思います。
ところがエフェクターとしてはディストーションやディレイなどに比べて、効果や係り具合が実際に聴いてみても分かりにくいうえに、効果を決める(音色を決める)パラメーターの数も多い(もちろん機種にもよりますが)のでギタリストにとっては、とても”取っ付きにくい”エフェクターであると言えるでしょう。
  今回ここで『よい音で録音しよう』シリーズ第3弾として「コンプレッサー」を取り上げるのは、HD・MTR(以下HDRと表記)録音においては「コンプレッサー」が非常に重要な役割を果たすからです。
「コンプレッサー」はエフェクター内蔵型のHDRには必ず内臓エフェクターの一部分として搭載されていますし、「コンプレッサー」の機能だけの単体機も多数発売されています。内臓エフェクターの「コンプレッサー」も単体機の「コンプレッサー」も突き詰めれば構造や使われている部品などの違いから音色の違いがあるのも事実ですが、基本的な動作の仕方はほとんど違いはありません。 「EQ」と並んで、使いこなすにはなかなかの手間ひまのかかるエフェクターですが、音楽の大事な要素である「音量」をコントロールするものですからじっくりと取り組んでみて下さい。
コンプレッサーの基本について
「コンプレッサー(以下、『コンプ』と表記します)」の役割として皆さんが認識しているものはどのようなものでしょう。「ギターのカッティングのツブを揃える」とか「エレキ・ギターのディストーション・サウンドに音圧感を出す」といったものでしょうか。もちろんこのような効果を生むことはできますが、ただ闇雲にコンプをかけたからといってこのように目的とする音色を作ることは難しいものです。まずはコンプの基本的な仕組みを理解しておけば、音色作りが早くなるばかりかアイデア次第で様々な使い方ができるようになるとおもいます。

 ●そもそもコンプとはいったい何者でしょうか。

  コンプは一言でいうと「音を圧縮する」機械です。
 大きい音を圧縮することにより相対的に小さい音を大きく聞こえさせるように『音量差』をコントロールする、ともいえます。

「音を圧縮する」と聞くとなんだか音を悪くするようなモノに聞こえますよね?
実際、音の「忠実度」という観点からしてみれば「コンプのかかった音」は「コンプのかかってない音」に比べて「悪い音」だといってもいいかも知れません。ではなぜ「音を圧縮する」コンプがレコーディングに必要不可欠なのでしょうか。その答えはa.『人間の脳の仕組み』b.『レコーディングする媒体』の2つにあります。

a.
自然界にはさまざまな音が存在していますが、実際に人間が聞き取ることができるのはその中の一部でしかありません。そしてさらにその中から脳が必要と認識している音を中心にして抽出するように聴覚として認識するようになっています。たとえば何かに夢中になっている時にそばで名前を呼ばれても気がつかなかったりすることがあるのは、そのせいであるとも言えるでしょう。一方で目を瞑った状態でいると何となく今まで聞こえてこなかったものが聞こえてきたりしませんか。これは「視覚」という五感の一部を失うことでどの音を中心にして聞き取ればいいのかわからず、脳がなんでもいいから聞き取ろうとしている状態であるといえます。

b.
レコーディングの媒体にはすべて「容量」というものがあります。昔ながらのレコードやカセット・テープでもそれぞれ「容量」があるため録音時間の限界がありました。HDRでも「ハードディスク」の 「容量」による録音時間の限界があります。これは同時に『ある一定のレベルで録音した場合の録音時間の限界』を意味しているといってもいいでしょう。例えば60cm四方のキャンバスに富士山の絵を描こうとした場合、実際の富士山の大きさをそのキャンバスの「容量」のほぼ『限界』に収まるように『圧縮』して 描くでしょう。もちろんこの60cm四方のキャンバスに3cmぐらいの富士山を描いてもいいかも知れませんが、「富士山の絵を描いたんだよ」と人に見せるんだったら程々に大きく描いた方が伝わりやすいですよね。

さてここでa.とb.の2つの問題を踏まえて話をレコーディングに戻してみましょう。
「レコーディング」はそもそも『その場にいない人』のために音楽を聴いてもらうことを前提としています。
その場でライブ演奏を体感しながら聴いている人は、脳を働かせ小さな音も都合よく聴き取ることができますが、それをそのまま録音レベルの制約のある媒体にレコーディングしただけでは、『その場にいない人』には小さな音まで聴き取ることが困難になります。『その場にいない人』つまり家でレコードやCDなどを聴く人に音楽のニュアンスやダイナミズムを最大限に疑似体験してもらうためには、コンプを使って音量をコントロールして、限界ある媒体に効率良く音楽情報を詰め込むことが必要になってきたのです。


●コンプの仕組み
先程にも「コンプは音を圧縮する」といいましたが、実際どのような動作をしているのか例を挙げて説明しておきましょう。入力されたレベルに対して出力されたレベルがどのように変化しているか注意して見て下さい。


「スレッショルド・レベル」を高くするとコンプはかかりにくくなり、「スレッショルド・レベル」を低くするとコンプはかかりやすくなる、といえます。この例の状態ではレベル2以上の音量の音は全てコンプがかかる、というわけです。
上のコンプのかかった状態の図を見て下さい。
入力レベル「2」を超えたあとどのように変化していますか?
入力レベルが4つ増加しているのに対して、出力レベルは2つしか増加していませんね。
入力レベル4に対して出力レベルが2、、、4:2=2:1、つまり2:1の率で圧縮されています。
なんだか数学の勉強のようになってきましたが、この圧縮率の事を「レシオ」といいます。
この図では『レシオを2:1で スレッショルド・レベルを2に設定してコンプをかけた』状態である、というわけです。

●さて、「スレッショルド・レベル」はそのままにして、この圧縮率を無限大(∞)に大きくするとどうなるでしょう?


もし 「スレッショルド・レベル」を6に設定したら入力レベルが6に満たなければレシオがどのように設定されていても、コンプはかからないことになります。またいくら 「スレッショルド・レベル」を低く設定しても、レシオが1:1ならばやはりコンプはかからないことになります。

 さてコンプのパラメーターには「スレッショルド・レベル」と「レシオ」の他に、「アタック・タイム」「リリース・タイム」というものがあります。
「スレッショルド・レベル」と「レシオ」 がおもにコンプが動作するかしないか、『オンかオフかを決める』のに対して、「アタック・タイム」と「リリース・タイム」はおもに『コンプの音色を決める』と考えると分かりやすいかも知れません。
「アタック・タイム」は入力された音が スレッショルド・レベルを超えてからどのぐらいの時間でコンプがかかりはじめるか、を設定します。 アタック・タイムを速くすれば入力された音が スレッショルド・レベルを超えるとすぐにコンプがかかり、遅くすれば 入力された音が スレッショルド・レベルを超えてもすぐにはコンプがかかりません。あまりに遅く設定しておくとコンプがかかりはじめる前に入力レベルが減退してしまい、全くコンプがかからない、ということにもなりかねません。
「リリース・タイム」はコンプのかけられた入力音が スレッショルド・レベルよりも小さくなってからどのくらいの時間でコンプのかかっていない状態に戻すか、を決めるものです。「リリース・タイム」が速いと スレッショルド・レベル以下の音はすぐに元の音量に戻るため、自然な残響が残ります。 「リリース・タイム」が遅いと 入力音が スレッショルド・レベルよりも小さくなってもコンプがかかったままになっているため、残響も減ることになります。
この 「アタック・タイム」と「リリース・タイム」の組み合わせ方をいろいろ変えることにより様々なコンプ・サウンドがつくり出されるわけです


コンプレッサーの活用法
仕組みが分かったところで実際どのように使いこなせばいいのでしょうか。
いま現在単体のコンプレッサーを持っている人は、もうすでに自分なりの使い方も見つけていることと思いますが、HDRを使いはじめたばかりの人は 、HDRに内蔵されているエフェクターにあるコンプを使いましょう。
最近の内臓エフェクターはとても優れたものが多く使いこなせればいろいろなコンプ・サウンドを楽しむことができます。内臓エフェクターのコンプには大体プリセットとしてあらかじめいろいろな設定が用意されているものが多いようなので、まずはそれを使ってみて下さい。その中で気に入ったものが見つかったら、 「スレッショルド・レベル」と「レシオ」や 「アタック・タイム」と「リリース・タイム」の設定がどのようになっているのかを研究してみるとよいでしょう。
この時一番注意してほしいのは、 「スレッショルド・レベル」です。
自分が弾いているギターの入力レベルにあわせて 「スレッショルド・レベル」を調節することを忘れずに行って下さい。ギターのレベルが 「スレッショルド・レベル」よりも小さいままで、『なんだかコンプがかかっているんだか、かかっていないんだかよくわからないな〜?』なんてこともあります。
コンプをかける前にレベルの設定をまず最初にきちんとやっておきましょう。


●コンプはいつかける?
コンプをいつ、どの位置でかけるとよいのでしょうか。
これはどのような目的でコンプを使いたいのか、という事次第です。
ディストーションの前にかけるか、後にかけるか、とか録音の最中にかけてしまうか(いわゆる”かけ録り”)、録音してからかけるか、などこれといった決まりは決してありません。
ただしマイク・プリアンプを併用する場合は、マイク・プリアンプの後にコンプを繋いだ方が、きちんとしたレベルに対してコンプをかけられるので、よりよい結果が得られると思います。
とにかくいろいろ試してみる価値が十分にあるところですが、すこし活用例を紹介しておきます。 HDRの内臓エフェクターを使う場合、かけられるエフェクターの数が制限されていたり、接続する順番が決められていたり、と各々の機能により不自由な場合もあるかもしれません。
このようなことも考えながら何とかやりくりしてみて下さい。

1.ギターの音にパンチを出したい!

このような場合はまず第一に、録音レベルをできるだけ最大にすることが大切ですから、弾いている音にコンプをかけながら録音してしまう ”かけ録り”がお勧めです。リミッター的な使い方でピークを抑えることで、 録音レベルを稼いでみて下さい。録音レベルが大きくとれるだけでも、俄然音にガッツが出てくるはずです。この時プリセットのパラメーターが調節できるものは 「アタック・タイム」に注意してみましょう。 「アタック・タイム」は速めがよいのですがあまりに速くし過ぎるとピッキングした音がもろに抑えられたような不自然な音になってしまいます。 またこのような使い方は、カッティング奏法の時のツブ立ちを揃えたい時にもいいでしょう。ただし ”かけ録り”の時にあまり深くコンプをかけてしまうと後からでは「コンプ・サウンド」の修正は効かないので、くれぐれも『かけすぎ』には注意してください。もちろんすでに録音されたテイクに同様のコンプを後からかけて、他の空いているトラックにバウンス録音する、というやり方もアリです。

2.リズムのノリを変える?!

モタってしまったり突っ込んでしまったり、というミスをなおすことはできませんが、カッティングのグルーブ感をかえることはできます。ここでは 「アタック・タイム」と「リリース・タイム」の設定の仕方がカギを握ります。
「アタック・タイム」と「リリース・タイム」を遅めにしてアタック感を強調したり、「アタック・タイム」 「リリース・タイム」を速くしてウラ拍を強調してみたりもできます。
この場合は深めにコンプをかけた方がはっきりした効果が得られます。

3.アコースティック・ギターは美しく!

アコースティック・ギターの音のよさの特徴はその余韻によるところが大きいと思います。
あまりレシオを大きくしないで 「アタック・タイム」を少し遅めに「リリース・タイム」は速めにしてみて下さい。
自然な余韻がより強調されると思います。
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4.EQと併用してより積極的な音作り!

コンプをかけた後に EQをかけると、もちろん EQの設定次第ですがよりビッグでワイドな感じにできます。
コンプによって潰れたように聞こえる部分を補正するというようなニュアンスかもしれません。この時にはEQによってレベルも変化してしまうわけですから、録音レベルには注意しなくてはなりません。
一般的には EQでだいたい好みの音を作ってからコンプでレベルを補正するという方法がよく使われます。ただし極端なEQをした後にコンプをかけると特定の周波数にのみ強くコンプがかかるということにもなります。もちろんこの時の『歪み感』のような音を狙うのもアリです。


このようにコンプはノリや歪み感までコントロールできる複雑怪奇な機械です。ただのレベル補正だけに使うのは勿体無いですね。コンプレッサーもココでは紹介しませんでしたが、STEP.7で紹介したマイク・プリアンプのように様々な単体機種があります。このような単体コンプレッサーもまた各々独特の音色を持っていて非常に魅力の多いもので、ぜひとも一台はもっていたいものですが、まずは内臓のコンプで仕組みをよく研究しておくことをお勧めします。  

いろいろな使い方ができる一方、いい加減な使い方をすると音楽を台なしにしてしまう事にもなりかねないもので、『コンプの使い方で音楽のセンスを問われる』といっても過言ではないでしょう。
コンプを上手に使えるようになれば、それだけであなたのデモテープはかなりのレベルになるはず。後はよい演奏をするだけ!です。
とにかく根気よく コンプとつきあってみて下さい。


次回は『HDRを連れて家の外に出てみよう』をテーマにしてみようと思います。



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