前回はアンプ・シミュレーターを内蔵したマイク・プリアンプなどおもに「ライン録音」に絞って話をすすめましたが、今回はアコースティック・ギターの音やエレキ・ギターのアンプの音などいわゆる「生音」をHD・MTR(以下HDRと表記します)に録音するための音の最初の入り口となる「マイクロホン(以下マイクとします)」を紹介してみようと思います。HDRの使いこなし術としてマイクやマイク・プリアンプといった周辺機器について詳しく説明をしたいのは、このような周辺機器を使いこなせてこそHDRのもつポテンシャルを最大に引き出せる、と僕自身考えているからです。
  例えは悪いかも知れませんが、ドライブを楽しもうと思った時、車にもしエアコンやカーステレオなどがついていなかったり、使い方がわからなくて使えなかったらその日のドライブの愉しみも半減してしまうかもしれませんよね!?ここで僕はマイクとマイク・プリアンプを「HDR録音の必需品」といわせていただくと同時に、皆さんにも是非これらを使いこなしてもらい、HDR録音を更にいっそう楽しんでもらいたいと思っています。
マイクの基本について
マイクを持っていればアコースティック・ギターの録音はもちろんエレキ・ギターのアンプの音も録音できることは今までにも述べてきましたが、様々なギターの音色で録音できれば、多彩な編集能力をもつHDRを使って曲にいろいろな表情の変化もつけられるようになります。
「マイク録音」によるギターの音色は「ライン録音」とはひと味違う独特の魅力がありますから、皆さんの曲のアレンジやプレイの幅をグッと広げてくれるでしょう。ぜひとも1本はもっていたいですね。
さて、マイクには本当に多くのモデルがあります。放送用や業務用のものから、カラオケやポータブルなカセット用、会議用などの一般的なものまで実に様々です。楽器屋さんに行けば楽器やボーカルの録音用に設計されたものを中心にしておいてありますから、購入の際その中から選べばほぼ間違いはありません。
ただそれらの中でも構造上の違いがあり、値段も高価なものから安価なものまで様々で、いざ購入しようと思うと迷ってしまいます。
まずはマイクの基本的なことについて知っておいて下さい。

●マイクの種類

  マイクの種類はその構造上の違いから、大きくわけて二つに分類されます。

a.
ダイナミック・マイク
皆さんにも見なれた、身近なマイクです。
だいたい図のような形をしています。カラオケ・ボックスやリハーサルスタジオにおいてあるのもこのタイプです。
構造の詳しい 説明についてはここでは割愛しますが、主に次のような特徴をもっています。

1. 外部から受ける振動や、瞬間的な過大入力に強い。
2. 広い周波数に対して等しく感度があると言うわけではなく、比較的狭い周波数帯域(主に中音域)にたいして拾音する。

以上のような特徴から、ライブ・ステージなど過酷な使用環境においてはダイナミック・マイクがよく使われています。レコーディング環境ではスネアドラムに特徴的な音を求める時や、大音量となるエレキ・ギターのアンプ録音の時などにも使われることが多いようです。

b.
コンデンサー・マイク
いかにも「大切に扱わなければいけない」ようなルックスをしていますね。
コンデンサー・マイクの特徴は以下のようなものです。

1. ダイナミック・マイクに比べて広い周波数に対して素直な感度を持ち、よりナチュラルな音質傾向を持つ。
2. 構造上、振動や湿気に非常に弱く管理が難しいうえに、録音時のセッティングもダイナミック・マイクよりも工夫が必要となる。

2.で述べた振動対策として右の図のような「ショックマウント・アダプター」というスプリングのようなものを使ってマイクスタンドに設置されていたり、唾の付着による振動板のよごれと損傷をふせぐ「ポップ・ガード」が一緒に設置されているのをよく見かけます。「ポップ・ガード」はボーカル録音の際の、ノイズ(「ふかれ」といわれています)の予防対策にもなります。
コンデンサー・マイクは音質的な傾向から、小さな音量の部分のニュアンスを出したい女性ボーカルのレコーディングやアコースティック・ギターの録音などに好んで用いられることが多いようです。
基本的には大音量の拾音には向かないものですが、最近のモデルでは許容入力のレベルを改善し、ライブでの使用やエレキ・ギターのアンプ録音にも十分耐えうる設計になっているものも多くなってきているようです。

全体的に見てコンデンサー・マイクの方が高価なモデルが多いようですが、必ずしも高価なものが自分の好きな音の物とは限りません。
とはいえ高価なものにはそれなりのすばらしい音色を持つものが多いのも、また事実です。
プロのレコーディング現場では、目的の音色にあわせて選べるように様々なマイクを多数用意しておいて、その中からチョイスしていくのがあたりまえのようですが、皆さんのHDR録音の場合、まずはお手ごろな価格のダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクどちらか1本持っていれば十分にマイク録音の奥深さを体験できると思います。STEP.7で紹介したマイク・プリアンプを併用すれば、更に自分のギターの音色に幅を持たせられる可能性も広がります。


●マイクの「指向性」について
「指向性」とは聴き慣れない言葉かも知れませんが、実はお馴染みのカラオケ・ボックスのマイクにも「指向性」があります。「指向性」というのはマイクの振動板にたいしてどの方向に感度が強いのか、というものです。
カラオケマイクの場合を例にとると、マイクの正面の音を最も強く拾うように設計された「単一指向性」のマイクであるといえます。
「指向性」にはこの「単一指向性」のほか、マイクのすべての方向に対して360度等しい感度の「無指向性」、マイクの正面と背面に感度を強めた「双指向性」、「単一指向性」の更に正面の感度の範囲を狭めた「超指向性」があります。マイクの使われる環境や状況がメーカーにも想定のしやすいダイナミック・マイクは、そのほとんどが「単一指向性」です。それに対して音楽のレコーディングの現場だけに留まらない様々なシチュエーションで使われることの多いコンデンサー・マイクは「指向性」も様々に設定されていたり、もしくはマイク本体で「指向性」の切り替えをできるようにしてあるようなものまであります。このためコンデンサー・マイクにはその「指向性」を示す小さな絵柄が描かれていることがよくあります。

単一指向性コンデンサー・マイクの一例
可変指向性コンデンサー・マイクの一例
 
ギターの録音には全般的に問題なく使えるでしょう。
後にも述べますが、この「単一指向性」の特徴であるタイトな音色はもちろんですが、音源とマイクとの距離の取り方次第ではナチュラルなサウンドも録音できます。
  「双指向性」にした場合、コーラスを二人向き合って同時に録音したい時に便利です。「無指向性」では録音している部屋やスタジオの壁による反響音なども拾いやすくなるので、生ドラムやアコースティック・ギターの音の自然な空気感などを録音したい時などによいでしょう。
ギターのHDR録音の際のマイク選びとして、「単一指向性でないといけない」とか「可変指向性の方がイイ」などという指向性の違いによる判断基準を持つことはナンセンスです。
ただし実際自分で録音しようと思った時に「指向性」について理解していないと、せっかくスタジオに入っても音決めがなかなか出来なくていい演奏が出来なくなってしまったり、よけいな時間をくって思わぬ回り道をしてしまったりすることにもなりかねませんから、自分のマイクがどのような「指向性]であるのか、および「どのような音で録音したいのか」をあらかじめ確認しておくようにしましょう。

さっそくマイク録音してみよう!
マイクはエレキ・ギター同様、出力レベルが非常に小さい設計ですからHDR録音での接続方法は、STEP.3やSTEP.7を参考にしてエレキ・ギターのアンプ録音・アコースティック・ギターの録音各々の場合に応じて、レベル設定を中心にしっかり行って下さい。

☆ギターの「マイク録音」の初心者のための注意点

1.HDRに内臓エフェクターがついている場合、なるべく最初はすべてのエフェクターをオフにして下さい。マイクやマイク・プリアンプの本来持っている音質特性をまず最初に知っておいてほしいからです。特にマイクは、マイクを置く位置やマイクを向ける方向(これらのことを「マイキング」といいます)によって大きく音質が変わってくるものですから、「EQなどを使わなくてもこれだけ音が変わるんだ!」という事をまず体験してほしいのです。

2.
「可変指向性」のマイクを使う場合、まずは単一指向の状態で使ってみて下さい。
「無指向性」「双指向性」の状態では音源とは違う方向からくる反射音なども拾ってしまうため、それらを狙って録音しようとする場合を除いては音作りが難しくなります。

3.マイクと音源の距離を一定に保つのと、振動によるノイズの防止のためにも、マイクはしっかりとしたスタンドに設置して下さい。スタンドの下にゴムマットや厚手の布を敷いたり、スタンドをガムテープで固定してしまうのも効果的です。

4.録音時にはモニター用として、密閉型のしっかりしたヘッドホンを必ず用意してください。
外部の音がきこえてきてしまうとマイキングによる微妙な音色変化を聞き取りにくくなってしまいます。
以上のような注意点を踏まえて、ごく簡単に「マイキング」のやり方を紹介します。


●エレキ・ギターのアンプ録音のマイキング
アンプをわざわざ使って録音をするからには、スタジオで大音量で録音したいですね。となると、コンデンサー・マイクを使おうとした場合は、そのマイクの「最大許容入力レベル」が問題となってきます。
もしも録音レベルがそのマイクの「最大許容入力レベル」を超えてしまうと音が割れてしまうばかりか、マイクの振動板をいためてしまう事にもなりかねません。ギター・アンプの音量にもよるのでどれだけのスペックならば大丈夫ということをここでハッキリ言えませんが、マイクのカタログや取り扱い説明書などにはそのあたりの事も書いてありますから、注意して読んでおいて下さい。

 基本的なマイキングの一例
イキングによる音色変化のポイントは、
1.ギター・アンプの「音量」
2..ギター・アンプのスピーカーとマイクとの「距離」
3.ギター・アンプのスピーカーとマイクとの「角度」
4.ギター・アンプのスピーカーとマイクとの「左右の位置関係」の4つのポイントで決まると言えます。

まずは左の図を参考にして多少普段より小さめの音量にした状態から始めて以上のポイントを少しずつ変えていきながら、好きなマイキングの方法を探してみてください。
マイクで録音された音がなんか違う???
「いつもバンドでリハーサルしているスタジオで、いつもの使い慣れたアンプで早速マイク録音してみたけれど、録音された音がなんだかどうしてもいつもどうりの音にならない!」という事はよくあります。これはマイクが悪いとかHDRが悪いとかいうわけではありません。
普段スタジオでギターを弾く時、演奏中ずうーっとアンプのスピーカーに向かってへばりつくようにしてプレイしませんよね?多少離れた位置で立って弾いていますよね。この状態では自分の耳に入ってくる音はさまざまな反響を経てかなり変化した状態(直接音と間接音が混ざった状態)になっています。
それに対してマイクの方はその特性上から音源から余りに離れると輪郭がぼやけてしまいますから、スピーカーの近くでほぼ直接音だけ拾うような状態になっているわけです。この差がこのような感覚の違いになっていると思われます。マイキングする際「ギター・アンプの音量を多少小さめの音量から始めた方がヨイ」と述べたのは、音作りの時に自分自身がなるべくマイキングする位置に近いところでモニターできれば実際の音を把握しやすくなるからでもあります。
まずはギター・アンプでの音作りをきっちりやれるようになっておくことが、「アンプ録音」の大前提です!

ノイズに注意!
リハーサルスタジオで、自分のギター・アンプから隣のスタジオの音が小さく聴こえてくる、なんて事も稀にあります。これはスタジオの電源周りが原因となり、ギターやエフェクターなどの機器がアンテナのような役目を果たしてしまいノイズとなって聴こえてしまうものです。
HDRでの録音の際は、このようなスタジオで録音することは極力避けましょう。どうしてもそのようなスタジオで録音しなければならない時は、ロー・インピーダンス仕様のギター(電池内臓のヤツ)を持っていくとか、できるかぎりシールド・コードを長さの短いものにするとか、エフェクターなど接続する機器を減らす、とかやってみるともしかしたら多少の効果があるかもしれません、、、


●アコースティック・ギターのアンプ録音のマイキング
アコースティック・ギターのマイク録音の場合は、マイキングの仕方によってほとんど音色が決まってしまうといわれるほどで、マイキングのポイントは『エレキ・ギターのアンプ録音のマイキング』のときと「音源とマイクとの関係」において1.以外変わりませんが、そのセッティングについてはいっそうシビアになってきます。その場の状況次第でどのようなマイキングがよいのかは、熟練したプロのエンジニアでも実際にやってみるまでわからないでしょう。

 マイキングの基本的な音質傾向
アコースティック・ギターの穴のあいた部分(サウンドホール)が音の主な出口ですが、直にここを狙うと中低域にかけて膨らんだような音になるようです。

とにかく根気よく好みの音が拾えるマイキングの位置を探すしかありません。
やっぱりノイズ対策!
アコースティック・ギターのマイク録音の場合、演奏の邪魔になる位置にマイクをセッティングすることはできませんから、多少離しぎみ(「オフマイク」といいます)でマイキングすることになります。
エレキ・ギターの場合と違い電気的なノイズを気にすることはさほどありませんが、このオフマイクの状態は足踏みする音なども拾いやすい状態になっています。演奏が盛り上がってきたのにノイズも乗ってしまった、なんてこともあります(これはこれでイイ味として聴こえることもよくありますが、、、)。このようなノイズが気になってしまう場合は、足下に厚手の布を敷くとか、くつを脱いでしまう!とか、マイクに「ローカット・スイッチ」(だいたい75・以下ぐらいの低音域のみの入力をカットする機能)がついていればそれをオンにする、ことなどが考えられます。「ローカット・スイッチ」については、録音したのちにEQを使って75・以下ぐらいの低音域をカットしてもほぼ同様の効果が得られます。
またHDRの「ハードディスク」自体が回転する音すら拾ってしまうスゴいマイクもあります。
このような場合は、HDRからできる限り離れるか、HDRに布をかけてしまうかするしかないでしょう。

 「マイキング」に”正解”というものはない、と僕は考えています。それは演奏する人のプレイスタイルや音の好みをはじめ、録音する楽器やスタジオの環境などあまりに千差万別であり、どんな状況でも「ココをコウスレバ必ずイイ音になる!」なんていう方法などない、ということは皆さんもすでにお分かりでしょう。
常に納得するまでトライし続けることこそが、自分にとっての最良の音に近づく道だと思います。こういった意味では、HDRのイイところって「時間の許す限り好きなだけ自分で納得するまでできる!」ってところにもあるんではないでしょうか。
 

今回は紹介しませんでしたが、マイクを2本立てる「マイキング」するやり方もあります。
この場合、2通りの音色のキャラクターを上手に混ぜた音づくりも可能なときもありますが「位相」という問題があり、場合によってはどんでもない音になってしまうこともあります。
マイクの2本立てに関してはまた機会を改めて「位相」という事も含めて説明してみようと思います。


次回はコンプレッサーのHDRの使い方について説明してみようと思います。



STEP9へ  ギターにハマる!INDEX
↓レコーディング機器の検索はJ-Guitar.comの「楽器を探す」で↓

★日本で最大級のギター登録本数と加盟楽器店★
新品・中古ギター(アコギ / エレキ / クラシックギター)、エレアコ / ベース / ウクレレ等の新品・中古楽器の他、アンプ / エフェクター / 周辺機器 / パーツ・アクセサリ / レコーディング機器も検索できます。
Copyright:(C) 2001 J-Guitar.com All Rights Reserved.