このコーナーではギターにハマった人達の素顔に迫ります


第2回は天才ハーモニカ少年・太郎君(11才)のお父さん、千賀明三(せんがあきみつ)さんを訪ねました。
千賀さんは1957年生まれ。太郎君と組んだ BLIND LEMON BROTHERS でギターとボーカルで音楽活動中。
太郎君はテレビなどで紹介される機会も多いのですが、彼を育てたお父さんって、いったい・・・?
千賀さんと太郎君


「ストーンズしか出せない音があるじゃん」
Q 月並みな質問ですが千賀さんがギターを始めたきっかけを教えてください。
千賀 ザ・タイガースだね!
Q えっ、あのグループサウンズのタイガースですか?
千賀 そうそう、小学校4年生のときかな、「モナリザの微笑み」の頃ね。はじめて音楽を意識して聴いたわけサ。トッポがなんかアーティスト然としててカッコよかったのよ。 当然オリジナル曲から入ったんだけどLIVE版なんかでねThe Rolling Stonesのカバーやってたの聴いてストーンズに興味を持ったワケ。
千賀さんが小学生の時に買った30数年前の教則本。未だに保存してあるというのがすごい!
Q そういえば Time is on my side なんてやってたなぁ。
千賀 グループサウンズのギターってメロ弾きがほとんどじゃん。けどストーンズのカバーやるときはメロ弾いてないワケよ。子供ごごろにも「スゴイ!」ってね・・・。それでストーンズを聴いてみたらキースがもっとすごい。「しかも和音で弾いてる!」って・・・もう感動モノよ。ストレートに自分の中に入ってきたね。
すぐに5千円かそこいらでエレキ買って何もわかんないけどストーンズの真似ごとをしてたワケ。Honky Tonk Women が出たときレコード屋さんでチャント曲名が言えるように何度も家で練習してから買いに行ったりしてたよ。題名の意味なんて全然わからなかったけどね。
Q 60年代の後半ですよね。その頃にエレキ弾いてる小学生なんていなかったんじゃないですか?しかもキースのコピーでしょ?なんか気持ち悪い小学生だなぁ。(笑)
それでバンドはいつごろから?
千賀 中学一年になって近所にベース弾く一年年下の友達がいて、そいつの友達がドラムやるってんでバンドらしきものをはじめてやったかな。The Beatles の Get Back なんかやったね。
「卒業生を送る会」なんかで人前で弾いたんだけどオレはストーンズがやりたいよね。でもゼッタイ無理じゃん。せいぜい Simon & Garfunkel よ。そんで「戦争を知らない子供たち」でしめるワケ。
Q その頃はストーンズしか眼中になかったんですか?
千賀 小学校時代はテレビでBeat PopsやYoung720なんか見てたからその頃から洋楽は色々聞いてたよ。エディ藩さんがチョーキングやるの見て「なんだコリャ!」なんて驚いてた時代からね。
ストーンズってさ、決してウマクないワケよ。キースだってジェフベックやクラプトンなんかと比べたらきついよね。でも、ストーンズしか出せない音があるじゃん、あの時代のあのグルーブ感ね。細かいテクニックがどうのこうのとかじゃないよね。そんなのどーでもいいワケ。ストーンズの世界が好きか嫌いかだけ。音楽ってそういうもんだと思うよ。でも、高校時代に「ジェフベックの方がウマイじゃん!」なんて言われて反論できなくってさ。(笑)
千賀さん所有のギター。左から、Fender Japan Telecaster 1980、G&L(ロサンゼルスのギターセンターで購入)、Guyatone Sharp5モデル。
Q 高校の頃はどんなでした?
千賀 ストーンズの影響でブルースも聴き始めたね。ストーンズは「オレ達は黒人じゃないから本物のブルースはできないけどオレ達の出来る一番いいブルースをやる。」なんて言ってたんで・・・。本物のブルースはストーンズとはちょっと距離があるように感じたけど、でも、ブルースをベースにした音楽が好きなことは自分でわかった。ブルースにハマッタのはもっと後になってからだよね。
こちらも千賀さんのギター。左から、YAMAHA Pacifica、GIBSON LD-1 1960年代、Alligator Precisionタイプベース 。
Q その頃のバンド活動はどうでした? ストーンズはやれたんですか?
千賀 ブルースベースのバンドがやりたかったんだけどベースとドラムが違うんでね。でも、高校の頃は少しは人に知られるバンドでテレビなんかにも出たんだけどね。
その頃メジャーデビューの話があってね、プロダクションにメンバー揃っていったんだけどさぁ、「君達はこの路線で行く。」って言われて・・・。なんか全然違うワケ。「みんなイヤって言ってくれ!」って心の中で祈ったよ、オレだけイヤって言えないもんね。結果は全員「ノー」で話はおしまい。
その時にはっきり意識したね。「オレは自分の納得できる音楽をやっていくんだ!」ってね。それ以来ずっとその気持ちは変わってないよ。
Q 高校を出てからはどうでした?
千賀 バンドを組んではヤメ、また組んではヤメ、が10年以上続くよね。バンドのメンバーの家に居候したりね。プロになるんだとかじゃなくて「自分がハマる音楽が見つかるまでやるぞ。」って感覚だったね。
サラリーマンには向かないしね、雇う方だってオレじゃイヤだろうし(笑)。 業界でメシ食ってゆく意識があればやることはそれなりにやってなきゃいけないんだけどそんな感覚もなかったもんね。今でもないのかな?
Q 最近はどうですか?太郎君と一緒にやるようになってからですが・・・
千賀 一番感じるのは太郎のおかげで自分の音楽がやれるってことかな。つまり、太郎が珍しいからどこで何やってもOKなワケ。以前はブルース系の音楽だからやれる場所が限定されててね。でも、今は色んなところでやれるんだね、そして色んな人が聴いてくれるワケよ。


「音楽ってサ、ハートに訴えるものじゃん」
Q 太郎君(小学校6年生)のことにちょっと触れますが千賀さんは太郎君をミュージシャンにしたいと思ってたんですか?
千賀 いや、ゼンゼン思ってなかったね。太郎が生まれた頃バンド仲間がよく家に出入りしててね、セッションするにもスタジオ代も高いしさぁ、オレの家でやれば手ぶらでは来ないしね(笑)。それでほとんど泊まっていくよね。そんなんで、1才頃から誰かのブルースハープで遊んでたよ。で、気が付いたら皆に混じって吹いてたワケ。
太郎君のボール紙ギター。FenderのJazz Masterと同じ形に作ってある。太郎君は現在、本物のギターをいじってます。
Q 誰も太郎君に教えたんじゃないんですね。
千賀 オレはテクニカルなことは何にも教えてないよ。でも一緒にやっててオレのグルーブ感と違うことやるとアタマくるじゃん。ちゃんと人のプレイを聞いてないって事だからさぁ、そんな時に怒ることぐらいかな。音楽を一緒にやるってことはある種のコミュニケーションだからここが一番大切なところだからね。
Q と言うことは太郎君を同じ音楽をやるパートナーとして認めてるって事ですか?音楽の上では対等ってことですか?
千賀 どうなんだろうねぇ?そこんところがオレ自身にも本当にわかんないんだよね。
Q 話は変わりますがエレキをアコースティックギターに持ち替えたのは太郎君と組むようになったからですか?
千賀 いや、まだ一年ちょっとしか経ってないよ。前はねオレはエレキで太郎もアンプ通してたんだけどアンプ通すと太郎の音がどうにでも出来ちゃうワケ。それで太郎が勘違いしちゃいけないんで生に替えさせたんだけどハーモニカの倍音をオレのエレキが食っちゃうワケ。だからオレもアコースティックに持ち替えたんだけどそれでバランスは良くなったよね。
太郎君のハーモニカ。こんなにたくさんの種類があるとは・・・さすがプロ。
Q なかなか厳しい親父ですね(笑)。テクニックは教えないけど押さえるところはちゃんと押さえてますよ。
でも、アコースティックに持ち替えて一年ちょっとだなんて思えないほど厚みのあるプレイですよね。
千賀 エレキでも同じような弾き方してたのよ、ブルースベースだからね。親指でベースなんかもちゃんと入れてね。太郎と2人だけだからベースラインは特に意識してるワケ。それからオープン弦を生かすアイデアなんかはやっぱりキースの影響もあるよね。
Q 千賀さんのアコースティックギターは独特のグルーブ感がありますね。生で聴くと凄い迫力ですよ。音楽的なスタイルは違ってもストーンズの影響を受けているってのが納得できますね。カッコいいなぁ。
千賀 繊細なテクニックや理論はあるに越したことはないけど・・・音楽ってサ、ハートに訴えるものじゃん。どんなに上手に正確に早く弾けたって何にも伝えられないんじゃダメだよね。そんなんで、やっぱりオレはストーンズ流なんだよね。


本物に触れるところまで行って欲しい
Q 最後に千賀さんが最近の若い人達を見て感じるところはありますか?
千賀 スタジオで練習風景見たことあるんだけど みんなそれぞれ完コピのタブ譜とにらめっこしてやってるワケ。タブ譜があってそれを完璧に弾けたとしても音楽にはならないんだよね。自分のパートを弾いてるだけになっちゃうワケ。多少タブ譜と違ってもみんなでコミュニケーションしながら自分達の音やスタイルを創ることを考えなきゃね。音楽ってそれぞれの解釈だからどんなスタイルになっても間違ってるってことは無いんだと思うよ。 音楽ってもっと自由で楽しいものじゃん。
Blind Lemon Brothersのライブ用機材たち。
Q 「学校で教科書どおりにやっていい点数取ればいい人生がある。」的な考え方と共通してますね。マニュアルや標準的な価値観に縛られないで人生だって音楽だってもっと自由に、もっと自分なりに楽しめばいいのにね。
千賀 それとね、最近ブルースが静かなブームみたいになってるんだけどさぁ、コンピューター系の音を聞いてきた若い人達には新鮮なんだろうけどブルースに興味をもったら中途半端なところで「ブルースってこんな音楽なんだ。」って思わないでほしいね。やっぱり本物に触れるところまで行ってほしいワケ。日本のブルースミュージシャンや黒人のブルースマン、例えばB.B.King やRobert Johnsonくらいまでは聴いて欲しいね。そうじゃないと結局このブームで逆にブルースが誤解されて行くような気がするね。
年輩の人がブルースって聞くと「あぁ、淡谷のり子さんが唄ってたアレでしょ。別れのブルース、いいわよねぇ。」ってのが実際いまだにあるんだから!またこんなのが繰り返されると思うと本当につらいよね。
機会があれば千賀さんのアコースティックギターの裏テクも紹介したいですね。エレキ弾いてる人も「これだったらアコギも弾いて見たい。」って思うんじゃないかなぁ。
今日は本当にありがとうございました。


インタビューを終えて
自宅の “キッチン・スタジオ” でギターを弾く千賀さん

「親の顔が見たい!」と思った。
FAXで送られてきた地図を頼りに高田馬場の入り組んだ小路を歩く。
丁寧に描かれた地図のおかげで難なく千賀さん宅にたどり着く。

出てきたのはコワモテ風の頑固そうなオヤジだ。
でも、話せば話すほどあたたかい。
愛用のGibsonから、千賀さんの口から、痛快なフレーズがバンバン飛び出す。
時間を忘れる。

誘われるまま近所の居酒屋で千賀ファミリーと夕飯だ。
親父はゴキゲン! 太郎くんはカワイイ! 奥さんはしっかりものだ!

自分の好きなように生きてきた。これからもそうなのだろう。
でも、覚悟はちゃんとできている。
心の整理はついている。

「この親にしてこの子あり。」
こんな親父を持った太郎君は幸せだ。
こんな家に生まれた太郎君は本当に幸せだ。
「正しく」育っていくだろう。人として、本物のミュージシャンとして。
でも、この親父を超えるのは・・・キツイぞ!

インタビューと文 J-Guitar.com < H.M. >
Blind Lemon Brothers CDの紹介
飲・食・住 七面鳥レコード P801TF ¥1,500(税込)
タローのハープが!!アキミツのギターが!!
父子のブルースな生き方がここにある!
Blind Lemon Brothers
(ブラインド・レモン・ブラザーズ)
1992年千賀明三(A-Guitar)とブルース・カーク(Harp&Vocal)により、「Blind Lemon Brothers」を結成。その後、ブルース・カーク帰国のため、日本のトップ・ハーピスト・佐々木“コテツ”哲也にメンバーチェンジ。やがて3代目ハーピストに「タロー」が参加、現在に至る。
上に戻る

ギターにハマる!INDEX
↓ギター検索はJ-Guitar.comの楽器サーチで↓

★日本で最大級のギター登録本数と加盟楽器店★
新品・中古ギター(アコギ / エレキ / クラシックギター)、エレアコ / ベース / ウクレレ等の新品・中古楽器の他、アンプ / エフェクター / 周辺機器 / パーツ・アクセサリ / レコーディング機器も検索できます。
Copyright:(C) 2001 J-Guitar.com All Rights Reserved.